往診・出張編

NPO法人鍼灸地域支援ネットでは、安全対策の委員会を設け、新型コロナウイルス(COVID-19)に対する鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師による出張施術時における感染防止対策について考えました。
施術所内における感染対策については、医療・福祉団体のガイドラインや、鍼灸師・マッサージ師統括団体からの勧告に準じることで、比較的効率よく感染症予防策が立てやすいのですが、出張(往療)施術では具体的な対策例が少なく、出張施術を主に行っている会員の意見を伺いながら、当NPOとしてのガイドラインを作成いたしました。
医療機関や大学教員の方々からも助言をいただきながら、形になってきましたので、ご報告いたします。
完全にリスクを排除することは難しいですが、施術者と患者、そして家族の方々が安心して往療していただくための一例としていただければと存じます。

ガイドラインのPDFをダウンロード

《鍼灸師の出張施術の際の新型コロナ感染防止対策例》

鍼灸師の新型コロナウイルス感染防止は、スタンダードプリコーション(標準予防策)の遵守に加え、接触・飛沫予防策を行うことが重要です。
 施術所における感染防止については、以下の二文献を参照ください。
(1)消毒
コロナウイルスはエンベロープを有するため、擦式アルコール手指消毒薬は有効
0.05%の次亜塩素酸ナトリウムも器具などの消毒に有効
(2)感染経路
新型コロナウイルスは気道分泌物および糞便から分離されるため、感染防止ポイントは以下の2点
・飛沫感染防止:ウイルスを含む飛沫が目、鼻、口の粘膜に付着するのを防ぐ →顔の粘膜を守る(サージカルマスク及び、必要に応じてゴーグルまたはフェイスシールドを着用)
・接触感染防止:ウイルスが付着した手で目、鼻、口の粘膜と接触するのを防ぐ→手をきれいにする、手指衛生の前に目や顔を触らない(必要に応じて手袋、ゴーグルまたはフェイスシールドを着用)
(3)残存期間
  環境中の新型コロナウイルスの残存期間は現時点で不明。物の表面についたウイルスは24時間~72時間くらい感染力をもつと言われている
(4)濃厚接触
国立感染症研究所の定義では、「濃厚接触者」とは、患者(確定例)が発症する2日前から1メートル以内で15分以上接触した人などとされている。濃厚接触者は保健所の健康観察の対象となる。
感染者に施術した場合でも、マスクなど感染防護具を着用し、消毒などのスタンダードプリコーションを徹底していれば「濃厚接触者」の扱いにはならない
◆濃厚接触者の定義は、国立感染症研究所「積極的疫学調査実施要領における濃厚接触者の定義変更等に関するQ&A(2020年4月22日)」を参照
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2484-idsc/9582-2019-ncov-02-qa.html


《感染防止の心構え》

基本は標準予防策の徹底。誰もがこのウイルスを保有している可能性があることを考慮し、全ての患者の診療において、状況に応じて必要な個人防具を選択して適切に着用すること《出張施術の感染防止策の具体例》
(1)日常の感染防止
・多数の人が集まるイベント等への参加を控えるなど、高リスクな環境(3密)を避ける
・人混みを通る場合や公共交通機関を利用する際はマスクを着用
・ 特定多数が接触した物に触れた場合は手洗い・手指消毒を行う
(2)出張時の事前準備
・可能な限り、ご本人・ご家族に発熱等の症状がないかを確認
・施術者自身の体温測定
・消毒液はホルダーなどを利用して常に手指の消毒が出来るよう準備しておく
(3)スタンダードプリコーション
スタンダードプリコーション(標準予防策)とは1996年にアメリカ疾病管理予防センターが発行した隔離予防策ガイドラインにより提唱された「感染症の有無にかかわらず、すべての患者に適用する疾患非特異的な予防策」。患者の血液・汗を除く唾液等すべての体液、分泌物、排泄物、傷のある皮膚、粘膜などをすべて感染源とみなし、予防策を講じることをいう。
鍼灸施術のスタンダードプリコーションについては、前出「鍼灸安全対策ガイドライン2020年版」に詳しく示されているので参照のこと。
(4)患者・ご家族に新型コロナウイルス感染が疑われる症状がない場合の個人防護具使用例
・マスク(サージカルマスク、布マスク等)着用
※ この場合も頻回の手指衛生を行うこと
(5)患者・ご家族の新型コロナウイルス感染が疑われる場合の留意点
・感染が疑われる方への訪問は、できる限りその日の最後にする
・予め患者・ご家族に手洗い実施とサージカルマスクの着用をお願いする
・訪問時、患者に会う前後に、流水と石鹸による 15~30 秒程度の手洗いを徹底。乾燥にはペーパータオル等の破棄できるものか、訪問先毎にタオルを準備
・施術中に施術者自身の顔や髪の毛に触れないよう、入室前に髪の毛をまとめる等、身だしなみを整える
・訪問中はサージカルマスクを着用し、退室時まで外さない。外したマスクは、環境を汚染しないように留意・破棄する
・ゴーグルまたはフェイスシールド、ディスポーザブル長袖ガウンまたはエプロン、ディスポーザブル手袋、履物(靴下)カバーなどを必要に応じて着用
・適宜換気を行う
・患者に触れる毎に手洗いをし、適宜、擦式手指アルコール消毒薬を用いる。手指消毒用アルコールは腰・肩掛けホルダーなどで装着しておくと、必要時に容易に用いることができる。
・体液(唾液、痰、排泄物、他)に触れる場合、ディスポーザブル手袋等を使用。使用後は手洗いと擦式手指アルコール消毒薬を使用
・施術時に発生したゴミおよびディスポーザブル手袋やマスクなどは、正しく着脱し、退室時にゴミ箱に破棄。体液が付着したゴミは、直ちにビニール袋等に入れ、密封して捨てる。ゴミを扱った後は手洗いと擦式手指アルコール消毒薬を使用してから退室
・体液が付着した白衣などの衣類は、手袋とマスクを着用して扱い、通常の洗浄後、完全に乾燥させる
・使用した器具は次亜塩素酸ナトリウム等で消毒する

《施術者及びその家族の感染が疑われる場合 》

・発熱等の症状がみられる時は、診断がついてなくても自宅待機
・14日以内に施術者が訪問した先には、その後 14 日間は毎日体温測定をするよう伝え、体調確認をする。また、外出を控えてもらう等、感染拡大の予防への協力をお願いする